横浜綜合法律事務所

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不動産・借地借家2013.12.10by YSLO

不動産・借地借家「定期建物賃貸借締結の際の注意」

最高裁 平成24年9月13日判決

例えば、地方への3年間の転勤が決まり、家をそのまま無人にしておくのは、物騒だし、もったいないからという理由で、賃貸借期間3年間という賃貸借契約を締結した場合、3年後に転勤から戻ってきても必ず自分の家に住めるとは限りません。
これは個別ページでも述べましたが、賃貸借契約においては、賃借人の地位が保護されており、賃貸人が、更新を拒絶したり、解約を申し入れたりするためには、正当事由というものが必要とされているからです。
上記のように3年間など決まった期間だけ家を貸したいという賃貸人の希望に沿う契約形態として、借地借家法38条(以下「法」といいます)は契約の更新がない定期建物賃貸借という契約を規定しています。
定期建物賃貸借契約を締結すれば、3年間の期間限定の賃貸借契約とすることができますが、賃借人にとっては、期間満了とともに立ち退かなければならないので、借地借家法は、以下のような要件を定めています。

具体的には、定期建物賃貸借契約を締結する場合、公正証書等の書面によること(38条1項)、賃貸人はあらかじめ賃借人に対し、契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借契約が終了することについてその旨記載した書面を交付して説明しなければならないこと(同条2項)を規定しています。
このうち、同条2項が定める書面は契約書とは別の書面であることが必要なのか否かという点について判断したのが、上記の最高裁判例になります。
事案の概要は、賃貸人と賃借人との間で、契約の更新がないこと、期間の満了により契約が終了する旨の条項が明記された定期建物賃貸借契約書を取り交わしており、契約締結前にも同契約書の原案を賃貸人から賃借人に送付していたという事案でした。
東京高裁は、賃借人は契約書に本件賃貸借が定期建物賃貸借であり契約の更新がない旨明記されていることを認識していたこと、契約書の原案が送付され検討していたことから、契約書と別個独立の書面を交付する必要性は極めて低く定期借家条項は無効とはならないと判断しました。

これに対し最高裁平成24年9月13日判決は、法38条2項の規定が置かれた趣旨について、「定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃借人になろうとする者に対し、定期建物賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了することを理解させ、契約を締結するか否かの意思決定のために十分な情報を提供することのみならず、説明においても更に書面の交付を要求することで契約の更新の有無に関する紛争の発生を未然に防止することにある」とした上で、「紛争の発生を未然に防止しようとする同項の趣旨を考慮すると、上記書面の交付を要するか否かについては、契約の締結に至る経緯、契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった個別具体的事情を考慮することなく、形式的、画一的に取り扱うのが相当である」とし、法38条2項所定の書面は、契約書とは別個独立の書面であることを要すると判断しました。

以上のように、最高裁は、法38条2項の書面は、契約書とは別個独立の書面であることを要すると明確に判断していますので、今後定期賃貸借契約を締結する場合には、この点について十分に注意しなければなりません。