横浜綜合法律事務所

横浜綜合法律事務所

トピック

Topic
コラム2020.06.05by 滝沢 章

心に残る事件

稀に「勉強が好きだ。」という方がいらっしゃいますが、おそらく多くの方がそうであるように、私も勉強があまり好きではありません。

弁護士になるためには、司法試験に合格し、その後司法修習という研修期間を経て、二回試験という試験に合格する必要があります。私の人生で最後の試験になるであろう二回試験が終わった際には、「ああ、これで勉強から解放される。」と清々しい気持ちになったことをよく覚えています。学生時代、先輩方から「弁護士になってからも勉強の日々だ。」と言われていたこともすっかり忘れ、長年の勉強生活の疲れを労いました。

二回試験の合格発表から1ヶ月もたたない平成23年1月、私は当事務所に入所したのですが、入所直後、当時のボスから配点を受けた案件で、「弁護士になってからも勉強の日々だ。」という先輩方の言葉を痛感することとなりました。

その案件は、ご高齢の依頼者が商品先物取引の被害に遭い、多額の金員を騙し取られてしまったというものでした。
商品先物取引について、その名を耳にしたことはあったものの、その取引手法、損益計算方法、また、取引契約書等で使用される単語の意味など専門的な事項が多く、取引自体を理解することも容易ではありませんでした。また、商品先物取引自体は違法な行為ではないため、勧誘業者の責任追及をするためには、取引勧誘段階、取引開始・継続段階、取引終了段階の全てを通じて、先物取引業者側の不当・違法な行為を指摘する必要があり、その解明も困難でした。そこで、さっそく何冊か本を購入し、基本的なことから勉強することとなったのです。

依頼者はご高齢で、とてもそのような取引を理解しているとは思えない方でした。また、業者との取引の経過等を分析した結果、先物取引の受託という取引形態を装って、いわゆる客殺し手法を駆使して依頼者から多額の金員を詐取したといえ、不法行為に該当すると考えられました。

そこで、いくつかの救済方法を検討しました。どれも初めて経験する手続きばかりであったため、本を読んだり、当事務所の先輩弁護士に教えてもらったりしながら進めることとなりました。しかし、損害賠償請求権を保全するため業者の預金に対する仮差押えを行おうとするも、直前に当該業者が清算手続きに入っていることが判明したり、警察に対して告訴の手続きを行うも、警察からは「他に被害届が確認できない。」「業者と連絡はとれていないのか。」等と言われるだけで刑事手続きには至らなかったり、業者とその代表者に内容証明を発送するも、何ら回答がなかったりと、なかなか思うようにはいきませんでした。

最終的には、損害賠償請求の訴訟を提起し、前述の取引の経過等を丁寧に裁判所に説明し、違法性が高いことを主張していきました。同訴訟において、仮に勝訴した場合でも過失相殺により減額される可能性が高いこと、業者側には資力がないこと等の事情もあり、結果としては、裁判所の和解勧告により、請求額の半額程度の支払いを受けることで和解をしました。

「弁護士になってからも勉強の日々だ。」との言葉どおり、先物取引を理解するためや、各種手続を実際に使うため、確かに多くの勉強をすることとなりました。しかし、これまで私が好きではなかった試験のための勉強とは異なり、私を頼ってくれている目の前の依頼者を助けるための勉強は、好き嫌いを考えるような類ではなく、労を惜しまず努力できるものでした。紆余曲折ありましたが、最終的には依頼者に納得いただける方法で解決できたというこの最初の経験が、今なお続く勉強の日々につながっていると感じています。

弁護士登録をして10年目となりますが、今後も依頼者の方々のお力になれるよう、精進してまいります。