横浜綜合法律事務所

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コラム2020.04.24by 小池 翼

心に残る事件

弁護士の仕事、というと皆さんはどのような事件を思い浮かべるでしょうか。おそらく、交通事故や離婚などといった一般民事事件や、刑事事件、企業法務などというものなどは、イメージされやすいかと思います。
実際に、私を含め、当事務所の弁護士たちも、このような事件を数多く手がけていますが、今日は、皆さんがあまり聞きなれていないであろう、破産管財事件についてのお話をします。

会社などの破産手続においては、その会社に残された財産を回収し、それを債権者の方々に配当する、という手順を踏むこととなりますが、実際に会社の財産を調査したり、不動産などを売却して現金化したり、集まった財産を債権者の方々に配当したりするのは、裁判所から破産管財人として選任された弁護士の職務となります。
裁判所から選任される、ということは、裁判所からある程度の信頼を置かれていると考えることもできるわけですから、破産管財事件を手がけるということは、弁護士にとって(少なくとも私にとって)は名誉なことだと思っています。
これまで当事務所の先輩弁護士たちが長い年月をかけて、裁判所の信頼を得てきたおかげで、私もこれまでいくつかの破産管財事件に携わらせて頂いています。
その中でも、特に記憶に残っているのは、私が破産管財人代理(破産管財人の補助者)として携わった、とある会社の破産管財事件です。
その会社は、資金繰りが悪化する中で、ぎりぎりまで営業を続けていたのですが、師走の時期に自己破産の申立てを決意し、年明け早々に裁判所から破産手続開始決定が出されました。
そのため、破産手続開始決定が出された時点においても、その会社が経営するビジネスホテルが営業を続けている状態にありました。
通常は、破産手続が開始すれば、その時点で、会社の営業活動などもすべて終了させることとなりますが、その会社の事業のうち、ビジネスホテルの部分だけを見れば黒字状態であり、何とかビジネスホテルだけは残せないか、ということを考えることとなりました。
ビジネスホテルを残すことができれば、そこで働く従業員たちも職を失わずに済みますし、既に宿泊予約をしている顧客たち(受験シーズンなので受験生もいたのです!)にも迷惑をかけずに済むからです。また、ビジネスホテルの事業ごと譲渡することができれば、その対価として得た財産を債権者の方々に配当することもできるようになります。
そこで、極めて異例ではありますが、裁判所より事業継続についての許可を得て、破産管財人においてビジネスホテル事業を継続することとしました。
とはいえ、ビジネスホテル事業など手がけたことはありませんから、右も左もわからない中、現地に何度も足を運び、従業員の方々の協力を得ながら、朝食ビュッフェの材料の仕入れや旅行雑誌への広告掲載、自動販売機の設置やクリーニング、クレジットカード端末機設置やごみの処理など、従前の外部業者との間の各契約を一から漏れがないように確認し、経費削減を図りながら、ビジネスホテルの営業を継続させました。
また、並行して、ホテル経営をしている他の会社に打診を続けていたところ、幸いにも事業ごと承継してもらうことができました。
苦労した甲斐もあって、もともとの従業員たちの職を守ることができ、顧客たちにも予定どおりの宿泊サービスを提供することができ、さらには、事業譲渡の対価として得た財産を、債権者の方々に配当することもできました。
破産という、ともすると関係者全員が辛い思いをしそうな案件で、これだけ多くの人に貢献できたことは本当に充実した経験となり、また、ビジネスホテルの経営という貴重な経験ができたことから、今でも強く記憶に残っています。