横浜綜合法律事務所

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コラム2020.05.22by 榎本 ゆき乃

裁判における「鑑定」

裁判では、争点につき専門的な判断が必要な場合、専門家による「鑑定」がなされることがある。鑑定には、人の同一性や血縁関係の有無に関するDNA鑑定、不動産価格に関する不動産鑑定、筆跡の同一性に関する筆跡鑑定、医療裁判における医師の見解を求める医療鑑定などがある。
このうち、DNA鑑定は、現在では、精度が極めて高く、99%以上の確率での判定ができるとされているが、以前は精度が低かったために間違った判断がなされ、その結果、冤罪が生まれてしまうこともあったわけである。また、医療鑑定などでは、医師により見解が異なることもあり、どの医師を鑑定人とするかにつき争いとなったという経験もした。
ところで、数年前に私が扱った事案で、筆跡鑑定がなされたことがあった。事案は、相続に関するもので、自筆証書遺言の字につき、亡くなった本人が書いたものかどうかが争われて筆跡鑑定がなされたというものである。筆跡鑑定というのは、本人が書いたものを対象筆跡として提出し、それとの比較分析により同一人による筆跡かを判断するのであるが、そもそも人はいろいろな字を書くものであり、精度は高いものではない。たとえば、走り書きと遺言書を書くときの字というのは、おのずと丁寧さが異なる。このときも、「のぎへん」の第一画目につき、右から左にはらっているものと、左から右に書かれているものがあり、問題となった側面もあった。最終的には、同一人物によって記載された可能性が高いという結果となりほっとしたが、精度が高くない鑑定については、それが判決内容に大きな影響を与えかねないことを考えると、鑑定をすること自体微妙な判断が必要となってもくるわけである。
裁判官は(もちろん弁護士も)万能ではないから、専門家の知見が必要なことは言うまでもないが、その鑑定結果は、多くの場合裁判の帰趨を左右することになるため、弁護士としても極めて神経を使う場面である。