横浜綜合法律事務所

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企業法務2013.12.13by YSLO

企業法務「内部通報制度」

いわゆるオリンパス事件の東京高裁判決で(東京高裁平成23年8月31日判決)、内部通報をした従業員を配転したことが、内部通報に対する報復であり、人事権の濫用として無効であるとの判断が示され、オリンパス側が同判決に対し上告及び上告受理の申立てを行いましたが、最高裁は、平成24年6月28日、同上告を棄却し、同申立てにつき上告審として受理しない旨決定しました。この事件から、会社における内部通報制度の運用状況及びその問題点を窺い知ることができるように思われます。
消費者庁が平成23年9月7日にとりまとめた「民間事業者における内部通報制度にかかる規程集」(以下「規程集」といいます。)によれば、46.2%の事業者がすでに内部通報制度を導入しています(但し、100人超の事業所では65.2%が導入している一方、100人以下の事業所ではいまだ15.1%にとどまっています)。しかしながら、ほとんど通報がないなど、制度が十分に運用されていないという声も多いようです。制度が十分良く運用されるためには制度に対する信頼を高めていくことが必要でしょう。

オリンパス事件では、内部通報を受けたコンプライアンス室が、内部通報者の承諾なく、関係者に内部通報者が誰であるかを知らせてしまったようです。この担当者個人に問題があったことは否定できないでしょうが、それ以前に内部通報制度を設置した目的が会社及び従業員に十分良く理解されていないのではないかと思われます。
規程集で紹介されている規程においては、その目的として法令違反や不正行為の抑止及び通報者の保護を掲げているものが多いですが、この目的自体に問題はありません。但し、通報により明らかにされた法令違反や不正行為それ自体に対処することで事が足りるのではなく、再発防止措置を講じることの方がより重要です。しかしながら、規程集で紹介されている規程をみても再発防止措置については、「再発防止措置を講じなければならない。」とだけ規定されている例が非常に多く、それは消費者庁が公表している内部規程例でも同じです。不正行為を行った者に対する処分については比較的詳細に規定しているけれども、再発防止措置を講ずべきことについては触れられていない規程すらあります。こうしてみると、通報された法令違反や不正行為への対応にフォーカスするあまり、「誰が」どのような法令違反や不正行為をしたか、それを「誰が」通報したかといったことに必要以上に関心が向けられているような気がします。しかしながら、より重要なことは「誰が」ではなく、どの業務プロセスにおいてどのような法令違反や不正行為が生じたかです。内部通報制度を法令違反や不正行為が起こり得るあるいは相対的に起こりやすい業務プロセスについての情報を収集する制度として位置づけ、得られた情報を内部統制システムの改善に活用していくという意識を十分に浸透させることが必要でしょう。

ところで、規程集において実名通報・匿名通報の取扱いについて規定のある53規程のうち、33規程が実名通報のみ、あるいは原則を実名通報としているようですが、「誰が」が第一義的には重要でないとすれば、あえて実名通報にこだわる必要はないでしょう。匿名通報では、通報内容について十分な調査が行えないことや、虚偽あるいは単なる誹謗中傷の通報が多くなるといった問題があるとの指摘もありますが、この問題は外部窓口の設置によって一定程度解決できると思われます。規程集において通報窓口の設置場所について規定がある75規程のうち、29規程においては外部窓口が設置されており、弁護士が外部窓口となることが多いようです。