トピック
Topic心に残る事件
私が弁護士登録をしたのは平成16年10月ですから、昨年の10月で20年の弁護士生活を送ったことになります。これまでの弁護士業務の中では、交通事故を中心に多くの事件を担当させて頂いています。特に、私の場合は、保険会社側に回ることが多く、その業務の大半が、被害者の方との示談交渉になります。今回は、私が初めて本格的な示談交渉を経験した事件として、運転免許の取り消し処分に関する事件を紹介させて頂きたいと思います。
この事件は、生鮮食品業を営んでいる相談者の方が横断歩道を横断中のご高齢の方を撥ねてしまったというものになります。被害者の方の怪我も重く、また、従前の交通違反歴もあった為、通常であれば、免許取消処分が想定される事件でした。
相談者の方は、一人で仕入れを行なっているため、運転免許が取り消しになってしまうと、仕入れができず、閉店せざるを得なくなってしまう状況でしたので、何とかならないかと思い、当時の私のボス弁のところに相談に来られました。
ボス弁と一緒に相談を受けた時点では、正直、免許取消処分を免れるのは難しいかなとも思いましたが、ご本人は、取り消しになってしまったとしても仕方が無いが、できるだけの事をしてもらいたいと強く希望されていましたので、受任をすることになりました。
一般的には知られていないとは思いますが、運転免許の取消や停止処分を課す場合には、違反者に対して、意見の聴取が行われることになっていて、その意見聴取の際、弁護士が代理人として意見を述べたり、有利な証拠を出したりすることが認められています。
そのため、免許の取消処分の事件を受けた場合、その意見聴取の際に提出できる証拠を集めることが重要な仕事になります。
相談者は、免許を失った場合、お店を閉店せざるを得なくなりますので、その経済的デメリットは非常に大きいのですが、それだけを強調しても、説得力はありませんので、被害者との間で示談を成立させるだけではなく、何とか被害者の方にも免許の件についての口添えをしてもらえないと考えました。
そこで、被害者のご家族に連絡をとり、お話をさせてもらえないかとお願いをすることにしましたが、被害者の怪我も重く、また、介護するご家族の負担も大きかったことから、ご家族を含めて、加害者への不満が強く、最初は、消極的な反応しか得られませんでした。
冷たい対応に心が折れそうになりましたが、諦めずに何度か被害者の方のご自宅に何度か足を運んだところ、最初は、ご家族だけの対応でしたが、最終的には、ご本人ともお話をさせて頂くことができるようになり、なんとか示談を成立することができました。
また、こちらの事情も丁寧に説明をしたところ、「免許取消処分がされることのないように、私からもお願い致します。」という嘆願書も作成してもらうという望外の結果を得ることができました。
被害者の方の直接の意見が功を奏したと思いますが、免許に関する処分については、免許取り消しではなく、免許停止ということになりました。
相談者が喜んでくれたのは、もちろんですが、私自身も苦手意識を持っていた示談交渉で成果を出せたということで、非常に自信になった記憶があります。
それ以降、数えきれないくらいの示談交渉を担当させて頂くことになりましたが、この最初の示談交渉事件で、成果を出せていなかったら、違った弁護士人生を歩んでいたかもしれないかと思うと、非常に感慨深いものがあります。