横浜綜合法律事務所

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研究会・セミナー2014.07.05by YSLO

2014.07.05(sat)第36回 事務所研究会

渡部英明「第4次厚木訴訟一審判決について」
  1. 神奈川県綾瀬市と大和市にまたがる軍用飛行場として、厚木基地がある。厚木基地はアメリカ海軍と海上自衛隊が共同使用している軍事基地であるが、そこで離着陸する飛行機、特に、米軍ジェット機の騒音は爆音と評価されており、厚木基地周辺に居住する住民に睡眠妨害、会話妨害のほか多大な騒音被害を与えている。
    厚木基地周辺の住民はこれまで国を相手に騒音被害についての損害賠償を請求してきており、平成19年12月に横浜地方裁判所に提訴したのが第4次厚木基地訴訟である。第4次厚木基地訴訟の判決が提訴から約6年5ヶ月を経過した平成26年5月21日に言い渡された。

  2. 民事訴訟では、損害賠償に関しては、原告6993名に対して、総額約70億円の賠償を命じ、行政訴訟では、「防衛大臣は、厚木飛行場において、毎日午後10時~翌日午前6時まで、やむを得ないと認める場合を除き、自衛隊の使用する航空機を運航させてはならない」という日本における基地訴訟としては初めての画期的な差止判決を言渡したものである。

  3. 第4次厚木基地訴訟は、民事訴訟と行政訴訟の2つの訴訟を同時に行ったが、どうして、2つの訴訟をする必要があったのか、一審判決は米軍ジェット機の航空機騒音が酷いことを認定しているにも関わらず、なぜ、その差し止めが認めなかったのか、日米地位協定の解釈も含め、検討を行った。
    また、厚木基地訴訟における各論点(航空機騒音評価のWECPNL論、共通被害論、健康被害論、危険への接近論、将来請求の可否、公共性論、行政訴訟における飛行差し止めの手続論等)の検討も行った。

  4. 原告及び国とも控訴したので、第4次厚木基地訴訟は一審判決では解決せず、控訴審に持ち込まれることになった。
    研究会では、控訴審における課題(米軍ジェット機の飛行差し止め等)を検証し、特に、米軍ジェット機の引き起こす爆音被害についての司法的救済ができない現状を一審判決が述べていることについて、控訴審で争っていく方法を検討した。

佐伯昭彦「スポーツ法の実務~スポーツ事故における教師の責任を中心に」
  1. はじめに

    1. スポーツ法研究会

      昨年4月に横浜弁護士会の専門実務研究会として、スポーツ法研究会が設立されたが、当職は、同研究会の幹事会のメンバーとして設立時からその運営に携わっている。

    2. なぜ今スポーツ法か

      スポーツには、人々を感動させ、勇気づけ、経済を発展させる力があり、われわれの日常生活において不可欠なものである。

      その一方で、スポーツの世界は、旧態依然とした封建的な体質の温存に終始し、大相撲の八百長事件やセクシャルハラスメント、いじめ、体罰等の様々な社会問題が発生したり、慣行を理由に不条理がまかり通るなど、一見、法律とは無縁のように思われるものの、実は法律問題の宝庫である。

  2. スポーツ事故の責任論

    スポーツ事故が発生した場合に生ずる責任としては、民事上の責任、刑事上の責任、行政上の責任が発生することが考えられる。

  3. 責任の主体(教師の責任)

    スポーツ事故が発生した場合、指導者、スポーツ施設の所有者・管理者、主催者、競技者の責任が問題となり得るが、ここでは指導者の責任について裁判例を取り上げて検討する。

    1. 体育の授業中の事故について

      小学校の児童が体育の授業中の事故により後日失明した場合に担当教師には事故の状況等を保護者に通知してその対応措置を要請すべき義務はないとされた事例(最高裁昭和62年2月13日判決・民集41巻1号95頁)

    2. 部活動(課外クラブ活動)における競技中の事故について

      町立中学校の生徒が課外のクラブ活動中の生徒とした喧嘩により左眼を失明した事故につき、クラブ活動に立ち会っていなかった顧問の教諭に過失がないとされた事例(最高裁昭和58年2月18日判決・民集37巻1号101頁)

    3. 部活動(課外クラブ活動)の競技前後の事故について

      被告学園の高等学校柔道部の練習場において、被告生徒が後輩部員である被害生徒にプロレス技をかけたことにより四肢麻痺等の後遺傷害が生じた事案で、被告学園としては、本件事故の発生を未然に防止するために、監視指導を強化する等の適切な措置を講じるべき義務があるとされた事例(横浜地裁平成13年3月13日判決・判タ1116号256頁)

本田知之「脳脊髄液減少症について」
  1. はじめに
  2. 脳脊髄液漏出症のメカニズム

    脳脊髄液漏出症とは、脳脊髄液が漏出することにより生じる一連の多彩な症状のことを指します。

    最初に、かかる症状が生じるメカニズムと検査方法についての説明を行ないました。

  3. 治療方法

    脳脊髄液漏出症に対する治療法の内容について、硬膜外自己血パッチ法(ブラットパッチ)を中心に説明を行ないました。

  4. 診断基準について

    脳脊髄液漏出症の診断基準については、概ね以下のとおりの基準に大 別できますので、それぞれの説明を行ないました。

    1. 国際頭痛学会の「特発性低髄液圧性頭痛」の診断基準

    2. Shievinknoの診断基準

    3. 日本脳神経外傷学会の診断基準

    4. 脳脊髄液減少症ガイドライン2007

  5. 厚生労働省研究班の中間報告

    厚生労働省の「脳脊髄液減少症の診断・治療の確立に関する研究班」が平成23年10月に発表した「脳脊髄漏出症」と「低髄液圧症」の診断基準の中間報告についての説明を行ないました。

  6. 裁判例の検討

    近時の脳脊髄液漏出症をめぐる裁判例25件についての検討を行なったところ、脳脊髄液減少症を肯定したのは3件、否定したのが21件、強く疑われるとしたのが1件でした。

    検討を行なった25件の裁判例では、上記3に記載した診断基準のいずれかの基準に基づき結論を導くというものではなく、起立性の頭痛の有無、ブラッドバッチの効果の有無、画像所見の有無等を総合的に考慮した上で、結論を導くという判断の枠組みが取られていました。

    なお、今後については、厚生労働省による診断基準の中間報告に従って、脳脊髄液漏出症の認定が行われることになると思われます。

小池翼「オンラインゲームに関する諸問題」
  1. はじめに

    近年、オンラインゲーム市場は飛躍的な成長を遂げているところ、これに伴う社会的影響の増大もあってか、消費者庁から景品表示法違反を指摘されたいわゆる「コンプガチャ」や、法律上の規制には至っていない「RMT(リアルマネートレード)」など様々な問題点が論じられている。

    これらオンラインゲームに関する諸問題について、そもそもどのような点に問題意識を持つべきなのかについて、オンラインゲームに関する一般的な知識の確認をするとともに、不当景品類及び不当表示防止法、著作権法、不正アクセス行為の禁止等に関する法律が適用される場面について、具体的なケースや裁判例を交えて発表した。

  2. 一般的知識

    オンラインゲームとは何か、どのような方法で顧客を集めているのか、どのような料金制度でゲーム事業者が収益を上げることが想定されているのか、などについての一般的な仕組みを発表した。

  3. コンプガチャ問題

    平成24年に世間を賑わせたコンプガチャ問題の概要や、それに対する消費者庁の対応状況、ゲーム事業者らによる自主的な対応状況、不当景品類及び不当表示防止法の適用場面などについて発表した。

  4. RMT問題

    近年のオンラインゲームの市場規模に比例するかのように、RMT(リアルマネートレード)、すなわち、「ゲーム内の財貨(マネーやアイテム)と現実の金銭との取引」の規模も拡大し、RMT専門業者が登場するなど、現実世界における経済的利益の獲得手段として投機的にRMTが利用されている現状を、実際のオークションサイトの紹介を交えて発表した。

    そして、このRMTそのもの、あるいは、その過程において、著作権法、不正アクセス行為の禁止等に関する法律に抵触する違法行為や、インターネット取引特有の詐欺行為などが介在する可能性があることについて、裁判例を紹介して検討した。

  5. 終わりに

    今後も、オンラインゲームの市場規模は拡大していくことが見込まれ、これに伴い、現段階では想定されていないような問題が生じていくことも予想される。

    このような中で、法規制の及ばない、あるいは、法改正が間に合わない場面においては、消費者の保護ひいてはオンラインゲーム市場の発展のために、ゲーム事業者による自主的な対応を促していくことも重要なのではないか。

横浜綜合法律事務所では、研究会・セミナーを通じて最新の法律情報を受講者の皆様と共有させていただきます。
また、その時々に話題になったトピックや事件に関する情報なども、当該分野に明るい弁護士が中心となり、研究成果や所感を発表する場としても活用しています。